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ログのつらなり

書評:アポロ13に学ぶITサービスマネジメント

昨年10月に発刊された『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』読了。
https://www.amazon.co.jp/dp/4774184926/

『良い設計を考える上で、航空宇宙関係の事故調査は参考になる』ということを教えてくれたのは、新卒1年目の時の師匠だった。曰く、事故を招いたパイロットや整備士のヒューマンエラーの原因を『不注意』や精神論で片付けることなく、人間が誤りを犯しそうな要因をできるだけ排除するように『設計』として織り込んでいく思想が見て取れるからだと。『ミス=不注意』という図式を学校生活で刷り込まれていた自分にとってこの考え方は結構衝撃的であり、社会に出て造り手側の思想に触れたことにより一歩大人になった気がした(やや大げさだが本当)。

実は『アポロ13』のことを知ったのは本書がきっかけではない。『アート・オブ・プロジェクトマネジメント』という書籍中の『問題解決』に関する章で触れられており、(前述の師匠の教えもあって) 普段はあまり映画を観ることのない自分が珍しく DVD を借りて観たものである。
# ちなみにこの本(https://www.amazon.co.jp/dp/4873112990)には非常に影響を受け、デマルコ3部作と並んで自分が仕事をする上での座右の書になった(そういや『デマルコを読め』と言ったのも師匠だった)。

映画は、予想に違わず非常に面白かったし、勉強になった。
アポロ13』は、月に向かう往路の宇宙空間で爆発が起こり、クルーの生存が絶望的な状態から、次々と無理難題を解決して地球への生還を目指す物語・・・じゃなかった史実である。
当時デスマ続きだった自分にとっては『無理難題・・・おっと頭が・・・』となるところだが、この映画のシビれるところは、全ての構成要素について冗長化が図られており、全ての作業には手順書が整備され、徹底的に準備された上で発生してしまった『想定外の事象』に対して、登場人物の全てがプロフェッショナルに対応していくところだ。いやーカッコいい。デスマとは大違いで、本当のプロジェクトとはかくあるべしという姿がそこにある。本書を読むにあたり、久しぶりに観返してみたが、やはり面白かった。

さて前置きが長くなったが、本書はこの『アポロ13』を題材にとり、ITIL を解説しようという趣向の一冊。
ITIL のことを知らない人でも読めるように書かれており、レベルとしては入門書の位置づけであるが、ITIL を網羅的に解説するようなものではなく、例えば『問題解決』と『インシデント』の区別、『SLA』と『契約』の区別など、ITIL ならではの考え方を映画のエピソードに絡めて解説していくものである。

この本はどういった人が読むのだろうか?前述のとおり『ITIL を知りたい』という入門者が網羅的に知識を得るものでもなく、かといって『アポロ13』のファンが副読本として読めるほど娯楽的なものでもない。そういう意味では微妙・・・かと思いきや、決してそうではない。ITIL のことを良く知らない、かつミッションクリティカル領域に関わっている全ての IT 関係者にオススメと言えます。映画を観ていないのなら、映画もぜひ、できれば読む前に観てほしい。
早いもので IT 業界に入ってからもう20年も経ってしまったけど、1年目に聞いた師匠の教えは確かに本当だったし、この本はまた、その確信を深めてくれるものでした。